レクイエム

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レクイエム

桜の樹の下で見る夢は悪しきけわいに染まると人の言う  昔、付きあっていたヤツが言った言葉だ。今ならわかる、有名な詞章からのパクリだと。でも、あの頃はカッコいいこというじゃんと思ったりしたものだ。まだ子供だったんだろう。あいつがいなくなって何年かが過ぎた。きれいに咲いたあと、風に吹かれて桜が散るように、あいつは自然にいなくなった。わたしも追いかけなかった。きっと大人になっていたんだろう。この頃なぜか、あいつのことを思い出す。記憶のなかのあいつはいつも桜の樹の下でと(うそぶ)いている。ほかにも思い出はあるはずなのに、無理にたどらないと景色は浮かんでこない。夏祭り、夜店でいっしょに金魚すくいをしたはずなのに、あいつの言葉は聞こえない。初詣、ふたり揃ってお賽銭を投げたのに、なにをお願いしたのかも憶えていない。春になって水辺の遊歩道を並んで歩いたとき、花を見上げてあいつはこういった、桜の樹の下で見る夢は悪しきけわいに染まると人の言う。     
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