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5 十年越しのお願い
アレンの両親は海外での仕事が多く、赴任先の国でもすぐに馴染めるようにカタカナの名前にしたのだと言う。
ただ、それが仇になり、日本では上手く馴染めないまま十年前の夏、海外に転勤になり日本を離れたそうだ。
話しているときのアレンの顔は、昔のことと言いながら、どこか悲しげだった。
思わず、小瓶を両手で包むように握る。
話が落ち着くと、アレンは紙袋の中から懐かしい缶を取り出した。
「これって……」
「そう、……残念ながら、埋めた場所は駐車場の整理をするときに、工事で掘り起こされちゃったんだって。三年前だったかな……今日まで、オーナーたちが持っていてくれたんだ」
確かに、砂ぼこりが舞ってしまうからと砂利を敷き詰めたり、周りも少し整理されていた。
埋めた場所は少し離れているから大丈夫だと思っていたが、ダメだったのかと寂しくなった。
それでも、私に隠してずっと黙っていたくれたオーナー達の優しさが嬉しかった。
「開けようか」
「そうだね。……あー、でも緊張してきた!十年間、ずっと楽しみにしてたんだよ。アレン君、最後まで書いた手紙見せてくれなかったんだもん」
「だって、恥ずかしいじゃないか……ほら、開けるよ?せーの!」
錆びた缶の蓋が、ゆっくりと開けられた。
二枚の手紙と、二人が写ったスピード写真が一枚。
当時好きだったアニメのカードと、小さな袋が入っていた。
「うわー、懐かしい!これ好きだったんだよね。あはは、『かっこいい彼氏ができてますか』だって。小学生なのにませてるー。アレン君はどうだった?なんて書いてたの?」
隣に座っているアレンは、読んでいた紙を見せてくれた。
書かれていた文字に数回まばたきをする。
そのまま、小さな袋を開けると出てきたのはおもちゃの指輪だった。
それを私に見せて、苦笑いするアレン。
「十年も経てば、こんなの入らないのにね」
『杏子ちゃんが、僕のお嫁さんになっていますように』
小瓶に入っていた手紙と同じ、習いたての平仮名がぎこちなくならんでいた。
その言葉に唇を動かせずにいると、アレンはそっと私に指輪を握らせ続ける。
「今も昔も、杏子ちゃんが大切なことに代わりはないんだ。いきなりお嫁さん……なんて言わない。友達から、同じ時間を歩いてほしい」
私を見つめる瞳があまりにも綺麗で、一気に顔が熱くなった。
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