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6 霧は晴れて
十年と言う時間は、とても長い。
離れていたのなら尚更であり、共に過ごした時間はたった数日のこと。
お互い、過去しか知らないまま、アレンを受け入れてしまっていいのか。
一気にいろんな考えが錯綜した。
思い出は、いつだって綺麗なままで残されていく。
ただ、嬉しく感じている自分の気持ちを否定したくなかった。
「私、もしかしたら、アレン君が覚えているような人じゃないかもしれない」
「それはお互い様じゃないか」
「だけど……」
「……杏子ちゃんは、変わってないと思うよ」
不安そうな私に、アレンは困ったように笑う。
どこかで見たその表情。
記憶の霧がどんどん消えていく。
そして、思い出した。
十年前、小瓶を差し出した時のアレンの顔と全く同じだったのだ。
言われた言葉も、耳元で鮮明に聞こえてくるような錯覚すら覚えた。
「思い出した……十年前も」
言いかけて伏せていた視線をあげると、アレンは耳まで真っ赤になっていた。
そして、照れ臭そうに笑う。
「そう。十年前も告白していたんだ。でも、まだ子供だからって断られちゃって。十年経って大人になったら、もう一度告白するって宣言したんだよね」
なぜ、こんなに大事なことが抜けていたのだろう。
ストレートな言葉に私もしどろもどろになる。
握らさせた指輪にプラスチックは、朝日を取り込んで優しく光っていた。
人との関係を拒む反面、どこかで自分だけを見てくれる誰かを探してしまうのは、人間の弱さゆえなのか。
そんな中で、十年もの間何のやり取りもできないまま、思い続けてくれた気持ちを。
忘れずに今日を二人で迎えられた事実を、しっかり受け止めたいと思った。
「友達から、今の私もちゃんと知ってくれる?私も、今のアレンを知りたい」
「杏子ちゃん……もちろん!」
忘れられない約束は、思わぬ形に結果を迎えたけれど、十年越しに握ったこの手と共に『これからも忘れられない時間』を沢山作っていきたいと、切に願うのだった。
おしまい
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