祈り

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 だからもう一度、と私はマナにくちづけた。そのくちづけは甘く、柔らかくて、私もマナも夢中になった。花火は私たちを祝福する向日葵のように咲き誇っては、散っていく。実は花火なんてよく見ていなくて、でも私はマナが特別なひとになったということが嬉しくて何度もくちづけた。 その日、私たちは花火の数だけキスをした。  私はお風呂掃除が終わると、PC画面だけが光る暗い自室に戻った。汗だくになりながらの掃除は運動不足の私にはちょうど良かった。 そしてあの日と同じように私の部屋に爆音が響いて、閃光が走る。その美しさに私は息をつめた。今も忘れられない、その閃光が私の部屋に広がる。 「マナ」  ふと漏れた一言だった。私はマナのことを忘れようとした。でもマナのことは忘れられなかった。マナがそこにいなくなっても、私はマナへ投げかける言葉を止めようがなかった。マナ、私はこうして元気にしているのよ。まるで祈るような気持ちでマナへの言葉を紡ぐ。マナ、あなたは元気にしている? と。  私とマナとの関係が大人たちに分かってしまうのに時間はかからなかった。図書館での何回目かの逢瀬で警備員に見つかり、私たちは引き裂かれ「不純同性交友」とレッテルを張られた。私とマナはお互いを求めあっただけなのに、それのどこが「不純」なのか私には未だに分からない。     
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