祈り

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 マナと最後に会ったのは、校長から理由を聞く席だった。私はマナが好きで、マナを誘ったのは自分だ、と主張した。ママは悲しんだけれど、それが最善の策だと当時の私は思った。マナは終始、口を閉じたままだった。それがマナの両親が望んだことだと、私には勘が働いた。私だけに処分が下ったあと、去り際に「キョウコ、ごめん」と一言いい、マナは泣いていた。  そのあとのことはあまり思い出したくない。ママは私を一か月間、外に出さず、いつも泣いてばかりだった。私は逃げるように私立の女子校に通うことになり、ひたすら勉強と読書だけして過ごした。成績はみるみる上ったが、私の気持ちはいつも冴えなかった。マナがいない世界は灰色だった。それなりの大学に入って私は悟った。もう二度とマナには会えないということを。私は書くことも始めた。それはマナへの祈りだった。マナ、あなたが幸せにすごせていますように。たとえ届かずに終わっても私にはそれでよかった。私には祈ることしかできないのだから。だから、どうか、どうかと言い聞かせ私はPCに向かっていることを思いだしたのだ。  私は泣きながらタイピングをする。締め切りが明日の一二時だからではない。それが切なく儚い努力だと知っているからだ。まるで花火のように一瞬だけ伝わる想いの熱量を私はキーボードに叩きつける。そして私は祈ることができて幸せだと、知る。
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