祈り

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祈り

 この部屋の窓からは星座すら見えない。  窓を開ければむっとした空気が部屋に流れ込んでくる。私は手元にアイス・コーヒーを用意して、書類と本に埋もれた机の上のPCを起動する。頭の中は真っ白で、特に書くことなんてないけれど、とりあえずワード画面を開く。窓から夜の帳が降りかけの空を見ながら、私は息を長く吐いた。そして一気に文字をタイプし始めた。 「ねえ」  マナがそう声をかけてきて、私は本から顔をあげた。 「こっち向いて」  私は聞こえないふりをして、再び本に向き合った。 「もう、こっち向いて」 「はいはい」  私は本を閉じて、マナを見つめた。大きな瞳に、切りそろえられた前髪が愛らしい。セーラーの夏服から伸びる白い腕は華奢だ。そんな腕を引っ張って私はマナの身体を自分の腕の中へ抱きしめた。 「甘えたがりやさんだなあ。マナは」  マナの長い黒髪から漂う女の子独特の香る甘いにおい。それは私しか知らない。そんな優越感が私を増長させる。私はマナの首すじに鼻を押し当てマナの匂いを堪能する。 「私、汗くさくない?」 「いい香りだよ」     
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