レモン

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私はあっけなく死んだ。 バスの事故だった。乗客の一人だった私は、巻き込まれて。 死んでしまって、私は記憶を失った。 なぜかはわからない。 「あ、猫。お前、飼い猫か~可愛いな。」 彼は、恵介。私の、私が生きていたときの彼氏だ。私は幽霊になってから、ずっと彼の側にいる。 恵介が見つけた猫は、三毛猫で、首に小さな鈴がついた赤い首輪をしている。人懐こく、恵介の手に頭をすりよせている。 「可愛いなぁー!果奈に…見せ……て…」 恵介はスマホのカメラ機能をやめて、ポケットにしまった。三毛猫が不思議そうにうつむいている恵介を見つめる。 「なぁ、お前は大切なやつがいるか?」 恵介が猫の喉元を優しく撫でた。猫は気持ち良さそうに鳴いた。それは恵介の肯定しているようであった。 「お前は大切なやついるんだな…」 恵介の瞳が少し暗くなる。 「俺にもいたんだ。大切なやつが。でも、あいつは…果奈はもういない。」 私は恵介に触れたい衝動にかられた。 彼の温かな体温と、彼から微かに香るレモンの匂い。幽霊になってもそれだけは覚えていた。 だから、彼の側にいたのだ。ずっと。
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