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<宏之>
チョコレート。あげたことも、貰ったこともない。高校生活は自分の性癖を知られないようにすることで手一杯だった。溝口がトチ狂ったりしなければ、それなりの高校時代だったのに。美佐雄にあげたネクタイはゴミに紛れて、とっくの昔に焼却されているだろう。
碧さんが俺の想いを受け入れてくれてから初めてのバレンタインデーを迎えるにあたり、俺は悩んでいた。碧さんが甘い物を食べているのを見たことが無い。そしてたぶんチョコレートはお店のお客さんがくれるはずだ。
もしカウンターに桜沢さんがいたら?苦々しい表情が浮かんで可笑しくなる。甘いチョコレートも台無し間違いなし。
手作りのチョコレート?女の子やプロのパティシエなら似合うけど、出汁の香りが漂うこの部屋で、チョコレートの甘い香りが混ざり込んだら?それはあまりにいただけない。碧さんが不機嫌になりそうだし俺も気がすすまないから却下。
最初に浮かんだプレゼントはタンカレーNo.10。でもそれはあまりにも芸がなさすぎる。古さんだったら八海山の一升瓶をどうぞ!なんてできるけれど、碧さんには駄目だ。
こういう時本当に困る。両親以外にプレゼントをした経験がほとんどない俺にとって、大事な人への贈り物はハードルが高すぎる。
服?自分の服だって碧さんにお任せ状態だというのに、俺がコーディネイトしてプレゼントできるはずがない。デパートに行くだけで途方に暮れそうだ。これで同じ職人だったら「鍋」「前掛け」なんていう必要なものをポンと贈れるのに。ああ~~あ。あまりに俺はダメダメ君だ。
スマホで何か検索しようとネットのトップ画面をひらく。ついついニュースを拾い読みしてしまい、加熱するデパートのチョコレート売り場が映る映像ニュースをみつけてしまった。高級、日本初上陸、俺にはまるでピンとこない単語とともに、チョコレートを物色する客の姿が映っている。
これはだめだ。客は全員女性だし、このわけのわからない莫大の量のチョコレートを一つに絞る自信がない。そしてこの女性たちに紛れて目当てのものを買う?無理無理!!
その後、スマホ片手に目的もないまま検索を続けるうちに眠ってしまった。
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