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<碧仁+桜沢>
「もうすぐバレンタインデーじゃないのか?関には何をプレゼントする?
関がチョコレートを喰うイメージはないな。和菓子なら想像できるが」
いつものようにカウンターの真ん中に陣取る裕は開口一番そんなことを言った。
そう、バレンタインデーだ。宏之に大手をふってプレゼントできる日でもある。物欲のない宏之に何かを買うのは本当に大変だ。「いりません」「足りています」そればっかりだ。似合いそう、ただそれだけの理由で服を買って来るなと口うるさく言う。
「俺はここと店の往復と、買い出しだけですよ?そんな綺麗な色の服を着ていく場所なんてないのは碧さんが一番わかっているじゃないですか」
毎回毎回そう言う。じゃあ家の中で着ればいい、そう言い返したらベッドに押し倒された。
「すぐ脱ぐはめになるのに?」
悪戯っぽく笑う可愛い顔を見て、わたしに何が言えるだろうか。
懲りずにわたしは同じことを繰り返し、宏之のクローゼットの中身が少しずつ増え始めた。宏之は妥協案です、取決めをしましょうと真剣な顔で言ったのだ。
「大義名分のある日だけ受け取ります」
誕生日・クリスマス・バレンタインデー・ホワイトデー。私があげた候補からホワイトデーが削られた。バレンタインデーとホワイトデーは俺達にはどっちもどっちな日なので片方でいいと却下。
だからわたしは年に3回めぐってくるチャンスをとても楽しみにしている。宏之の手をとってから初めてのバレンタイン。私はすでに大将に贈り物の相談をして、手を打ってある。大将に迷惑をかけてしまったが、いつものように柔らかく笑ってくれた。
「俺の楽しみを横取りされた気もしますがね。沢木さんから送られれば、俺と違った意味で精進しやすよ。絶対です」
わたしは浮かれている。一日でも早くバレンタインがくればいいとウキウキしている。
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