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「もったいぶらないでよ。宏之は何て言ったの?」
「驚くなよ。「お兄ちゃん」だ」
わたしは完全に固まってしまった。裕相手にそんな事言う人間がいるなど想像したこともなかったからだ。兄貴ならともかく裕が「お兄ちゃん」キャラ?
「驚かないほうが無理」
「だろ?俺も何年ぶりかの大爆笑ってのをやらかして、実乃里が見に来たくらいだ。関のこと化け物を見るような目で見ていたぞ?あれは最高に笑えたな」
「そう。なんだか不思議だね」
「なにがだ」
「裕はわたしの浮かれた顔を随分見ていなかったでしょ?わたしはそんな顔ができるようになった。
そして裕はお腹の底から笑う事を思いだした。それをしたのは宏之。
たった一人の人間のおかげで、わたしも裕も何かを取り戻したってこと。とっても不思議、でも幸せだ」
「けっ、惚気てろ!」
裕の照れ隠しの悪態を聞きながら、実感する。宏之の存在によってこれからも変わることができるはずだ。信じて手を握っていれば、わたしを違った場所に連れて行ってくれる。過去を振りほどいて、自分が生きるべき場所と時間を宏之がくれる。
神の啓示のようにわたしはそれを確信した。今まで思い浮かべることもなかった「未来」の存在を感じることができる。
ああ、わたしは幸せだ。
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