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そしてオヤジさんの言う通り「時」が来て香港とのやり取りが始まった。文哉さんのはからいで人材が派遣されたようだが、私は詳しく彼らのことを知っているわけではない。閃を間に介して若に必要と思える物のリクエストがあったりするが直接話したことも見たこともない。
それでいいのだろう。私という人間は誰からみても権田の中で浮いた存在だ。実体のないまま、屋敷を取り仕切っている男。そのような人間は多くを知らずにいたほうが雑音に惑わされずにすむ。
そしてオヤジさんから桜沢にバトンが渡されたあと、私は存在しなくなる。跡は実乃里が権田の屋敷を動かしていくだろう。
その日がくるのは寂しくもあるが楽しみでもある。桜沢が選らんだだけあって根性が据わっているし器用、それを隠すだけの賢さも持ち合わせている。
さて、明日は何を叩き込んでやろうか。必死であるはずなのに、笑顔を浮かべる実乃里を思い浮かべると気持ちが上がってくる。
時計を見れば頃合い。湯の準備を始めるとしよう。今日も帝釈天にお逢いできる。
私にとって一番幸せな時間……これがあればいい。
他は何も望まない……望むまい。
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