178人が本棚に入れています
本棚に追加
<バレンタインデー当日/宏之>
今日は起きて待っていよう。
俺はテーブルに置かれたダンボールの箱を眺めている。これは帰り際大将が渡してくれたものだ。碧さんが大将に頼んだ物らしい。
何時の間に?というより大将と碧さんは共通の趣味でもあるのだろうか。長細い箱は軽くもなく、それほど重いわけでもない。
『今日も一緒でしたメール』に返事がきて、仕事が終わったら来てくれる事が書いてあった。今日はバレンタインデーだから碧さん的には何かをプレゼントしていい日。あまり高いものだと恐縮する。
着ていく場所もないのにスーツとかだったらどうしよう。高い腕時計だったらどうしよう。スマホがあれば時間はわかるし、店にいれば店の時計がある。仕事中には時計はできないから、サラリーマンに比べたら価格を無視した低コストパフォーマンスになってしまうだろう。お願いです、時計じゃありませんように。スーツもいりません。すでに貰った一着で充分です。
ああっ!忘れていた!どこに隠そう。今日貰ったチョコレート。お店に来た何人かの女性客から渡された煌びやかなパッケージ。古さんはその度「おいおい。兄ちゃんの和服美人と張り合うつもりかい?」と言ってくれた。受け取るべきか突き返すべきか?貰えばなんだか碧さんに申し訳ないし、突き返せばお客さんに失礼だ。
「和服美人に敵わなくても、関君ファンとしてアピールしておきたいって程度だから気にしないでね」
そう言われてしまい、受け取る羽目になった。コンビニで売っている小さな箱程度なら恐縮しないのに、映像ニュースで映っていた商品みたいなラッピング。
チョコのことを考えたら動悸が激しくなる。これを見つかったら碧さんに縛り上げられるだろう。絶対苛められるのは確実だ。ドキドキがぶり返し俺は部屋の中に隠せそうな場所がないかウロウロと歩き回る。
キッチン?冷蔵庫はだめだし食器棚にしている棚には目隠しがない。シンク下は?鍋に入れて蓋をしてしまえば見えないかも。それに碧さんは鍋に触ることがないし。蓋をあけて袋につっこんだチョコレートを中にいれようとしたが入らなかった。なんでこんなに長細い箱なの!浴室?だめだ。あそこに秘密の場所はない。
最初のコメントを投稿しよう!