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周囲を囲まれたまま次の出口で高速を降りたあと先導役の車の後ろについて走る。前には一台、後ろには2台。反対車線に飛び出しUターンしてかわす、そんなアイディアが浮かんだがやめた。絶対に追い付かれるだろう。車の性能が違いすぎる。
先導車に従って左折。横道に入り300mほど走ったところで前の車がハザードを出したから素直に止まった。
強盗なのか?こんなイカした車で強盗するはずがない。今日の積荷にはアワビも燕の巣も荷物にない。こんなショボいトラックを襲う意味がまるでわからない。武器を使わず相手を従わせるやり方はプロの匂いがプンプンする。チンピラにしては穏やかすぎた。
窓ガラスをコツコツ叩かれる。抵抗は意味がないから素直にドアを開けた。
「聞きたいことがある」
はあ?聞きたいことにしちゃあ随分大げさだな。犯笑いの俺にギリっと睨みが付けられて冷汗が背中を伝った。この男はダメな類だ……怒らせたら最後。
「配達の途中誰かを乗せたか?」
「いいえ。荷物は降ろすだけだから増えてもいません」
「荷台を開けろ」
すでにトラックの後ろには4人の男が立っていた。もれなくスーツにサングラス、そして革手袋。今日はマジでついていない。荷台のフックを外し扉を大きく開ける。
「私が行く」
怒らせたら終わりの男の後ろから真っ黒の男が現れた。黒い髪、黒い瞳、身に着けるものすべてが黒い中シルバーのネクタイだけが色を持っていた。ゴクリと唾を飲み込む。目を合わせてはダメだ!これは最強にダメな部類の男だ!
しなやかに動く体が荷台の中に消えていった。
「運転席に戻れ」
「あ、でも扉が」
「問題ない。こちらで閉める」
有無を言わさないその目と低い声に逆らう無意味さを実感して言われたまま運転席に戻った。段ボールを動かしているらしい音が荷台から聞こえてきた。荷物の数が合わなくても俺のせいじゃない。あんな怖い人間に囲まれて抵抗するほど会社に対する気持ちもないし、どうにもでしてくれ。
『 !!』
ん?聞きなれない言葉だ。ガタガタという音とバタバタと荷台を移動する足音。ミラーで後ろを伺うとさっきのヤバイ黒ずくめの男が誰かを横抱きにして車に向かう後姿がチラリと見えた。束ねた髪がユラユラ揺れている。女?
確かめる間もなく眼光鋭い男が立ちはだかり、ミラーにはその男しか映らなくなった。
もしかして『そごう』の前で起こっていたいざこざか?あの時このトラックに誰かが潜り込んだってことか?だとしたら完全なとばっちりじゃないか!
コツコツ窓ガラスを叩かれ言われるままドアを開ける。
「手間を取らせた。今回のことは社長にも報告済みだ。お前に非はないことを伝えてあるので問題にはならないだろう」
「はぁ……」
「今は真面目な生活をしているようだが、ガキ同士でギャングを気取ったチンピラをやっていたそうじゃないか」
「……え?」
「であれば十分意味はわかるはずだ、今回のことは他言無用、もし漏れ出ることがあったなら容赦はしない」
「ちょっとまってくれよ!完全なとばっちりだ!俺はなにもしていない!」「何もしていない事は承知している。ただ関わったのが我々だったのが運の尽きだったな。わかるだろう?大龍に逆らって生き残ったものはいない」
「まさ……か」
「ああ、そのまさかだ。残りの配達を済ませて社に戻るがいい。社長から話があるだろう。以上だ」
ドアがパタンと閉まる。男たちは車に乗り込み走り去っていった。大龍だって?おいおいおいおい!抱えた頭をハンドルにのせたらクラクションの間抜けな音が砂利道に響いた。思った通り最強にヤバイ奴だった!よりによって凍月だったなんて!やっぱり今日は最悪すぎる!
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