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彼の心臓が鼓動をやめた。
他でもない、私が彼を殺めた。
徐々に、じわじわと、毒を盛った。
彼にふるまった手料理、レストランのワイン。
極めつけは、あの日のキス。
あの毒でついに彼の体は悲鳴を上げた。
国家間の関係を大きく左右する情報、それを彼が握ったのもあの日だった。
彼の部下であり、恋人であり、……そして暗殺者の私に、おそらく彼は気づいていた。
だから、私は、一度だけ、聞いた。
「なんで、私の料理を食べられるの?」と。
彼はきょとんとした顔をして、それから目を細めて、穏やかな笑顔で答えた。
「好きな子が作ってくれたものは、おいしいよ」
毒に、気がついていたくせに。私が敵だと、わかっていたくせに。
「なんで、笑顔なんか、見せたの……なんで、あんなこと、言ったの……」
彼のくれた言葉。
いつも厳しい上司だった彼が私だけに見せたあの表情。
たくさん、殺してきた。
相手に情が移ったことなんてなかった。
殺した相手の顔すらも覚えていない。
なのに。
あなたを愛してしまった。
あなたに愛されてしまった。
あなたの残した毒は、私の毒より、ずっと酷くて、重くて、苦しいよ。
彼のくれた言葉は、笑顔は、いつまでも消えない毒。
彼の見せた鮮やかな世界はモロクノの私を殺した。
彼のgiftは今も私を
苦しめ続ける。
end
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