色づく世界、褪せる世界

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************ 彼の心臓が鼓動をやめた。 他でもない、私が彼を殺めた。 徐々に、じわじわと、毒を盛った。 彼にふるまった手料理、レストランのワイン。 極めつけは、あの日のキス。 あの毒でついに彼の体は悲鳴を上げた。 国家間の関係を大きく左右する情報、それを彼が握ったのもあの日だった。 彼の部下であり、恋人であり、……そして暗殺者の私に、おそらく彼は気づいていた。 だから、私は、一度だけ、聞いた。 「なんで、私の料理を食べられるの?」と。 彼はきょとんとした顔をして、それから目を細めて、穏やかな笑顔で答えた。 「好きな子が作ってくれたものは、おいしいよ」 毒に、気がついていたくせに。私が敵だと、わかっていたくせに。 「なんで、笑顔なんか、見せたの……なんで、あんなこと、言ったの……」 彼のくれた言葉。 いつも厳しい上司だった彼が私だけに見せたあの表情。 たくさん、殺してきた。 相手に情が移ったことなんてなかった。 殺した相手の顔すらも覚えていない。 なのに。 あなたを愛してしまった。 あなたに愛されてしまった。 あなたの残した毒は、私の毒より、ずっと酷くて、重くて、苦しいよ。 彼のくれた言葉は、笑顔は、いつまでも消えない毒。 彼の見せた鮮やかな世界はモロクノの私を殺した。 彼のgiftは今も私を 苦しめ続ける。 end
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