第1章

2/2
前へ
/2ページ
次へ
「お母さんね、再婚することになったの」 私、川崎愛理はある日の朝、起きぬけに母に言われた。 「でもね、相手の人はハワイで仕事をしているの。もちろん、私も仕事は続けるつもりよ」 因みに私の母の仕事はモデルだ。 「ハワイに拠点を移して仕事をするの」 つまり事務所を移籍するということだ。また週刊誌がうるさいだろうな。 「結婚って言うけれど、その人と付き合ってどれくらいなの?」 「う~んとね」 顎に人差し指を当てて少女のような顔をする。今年で三十二歳になる母だけれど見た目は十代でも通じそうなぐらい童顔だ。 因みに私の年齢は十六歳。母が十六歳の時に私を生んだのだ。できちゃった結婚で。それから計四回は離婚と再婚を繰り返している。世間では週刊誌の女王と呼ばれている。 「一か月ぐらいかな」 「はぁ!?バカじゃないの。付き合って一か月の男と結婚するなんて。いくら前から知っている人でも」 「ああ、違う違う。会ったその日に付き合い始めたから、出会って一か月よ」 嬉しくない訂正が入った。つまり初対面でいきなり恋人になったということだ。 我が母ながら貞操の感覚が分からん。 「私はハワイに彼と住むけれど愛理ちゃんは高校があるでしょう。でも愛理ちゃんを一人暮らしさせるのは不安だから。愛理ちゃんの従兄妹に頼んで置いたから」 「は?」 「愛理ちゃんの家は今日からそこね。はい、これ地図」 手渡された一枚の紙きれ。 「じゃあ私は今からハワイに行くから」 「は?」 「じゃあ、元気でね。愛理ちゃん」 「はぁぁぁっ!!」 戸惑う私をよそに母は大きなキャリーバックを持って笑顔で家を出て行った。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加