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「やめなさい」
お父さんの口から厳かに放たれた一言に、私の心は凍りついた。
お父さんは一切、私を責めない。
陸南生に近づくなって約束を破ったことも、陸南の男の子と内緒で付き合ってることも。
だけどそれらについては自分に落ち度があると感じていたから、責められても仕方ないと思っていた。
それなのに、お父さんはどういう経緯で彼と知り合ったのか、どうして私が陸南生の男の子と付き合おうと思ったのか、そういう事情を全く知ろうともしてくれなかった。
怒りながらでも訊いて欲しかったし、私も自分の正直な気持ちをぶつけたかったのに。
そのことが、とても悲しかった。
涙を堪えると膝の上で握りしめた手がぶるぶると震えた。
口を開けば感情が溢れだして泣いてしまいそうだったけれど、私は時間をかけて自分を落ち着かせて、呼吸を整えてからようやく震える声で言葉を発した。
「なんで……?」
それしか言えなかった。
だけどその『なんで』にはたくさんの意味が込められていた。
なんで桐谷くんと付き合っちゃいけないのか。
なんで私の言い訳を聞こうとしてくれないのか。
だけどお父さんが次に口にした言葉は、私にもっと衝撃を与えた。
「桐谷はダメだ。やめなさい」
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