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「桐谷は悪いヤツじゃない。それはお父さんだって分かっている」
「……」
「だけど桐谷にはもう近づくな」
お父さんはそこまで言うと、話はもう終わりとでも言うようにテーブルに手をついて立ち上がった。
そして背中を向けて和室を出て行くまで、私はずっとその一連の動作をただ見ていた。
涙も引っ込んでしまった。
ショックが大きすぎて。
頭の中でぐわんぐわんと不協和音が大きく鳴り響いている。
その音が思考を邪魔して考えが上手くまとまらない。
お父さんは何が言いたかったんだろう。
桐谷くんは私がお父さんの娘だと分かるともう付き合ってくれなくなる?
どうして?
桐谷くんはお父さんのことを怒っているの? 恨んでいるの?
お兄さんみたいな存在の先輩を退学にさせたから?
でもそれってお父さんのせいなの?
そこまで考えつくと、また堰を切ったように涙が溢れだした。
そんなのお父さんのせいじゃないじゃんって言えちゃうのは、私が退学になった『タツオくん』を知らなくて、先生であるお父さんの娘だから……?
陸南と光丘、着ている制服が違うだけじゃない。
私と桐谷くんの間には深い掘があって、生きてきた立場までまるで違ったんだと思い知らされた。
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