加速

3/12
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
レントくんギター弾けるんだ……。 そんなことに気を取られてボーッとしていたら、私の顔に向かってレントくんが服を投げつけてきた。 「ぶっ……、な、何……!?」 「服。制服乾かしてきてやるよ」 「へ!?」 「すぐそこコインランドリーあるから」 「い、いい! いいです!」 思わぬ申し出にビックリして後ずさる。 まさかこんなところで着替えまで借りるわけにはいかない。 「びしょ濡れじゃん。そんな格好で座るなよ」 「あ……そ、そうだよね。ていうか! 私の家ここから近いから、家に帰った方が早いし!」 「じゃあなんであそこにいたワケ?」 「えっ……」 「家すぐなんだろ? 家に帰ってりゃよかったじゃん」 私は答えられずに黙ってしまった。 レントくんはするどい。 「家に帰りたくない理由があったんじゃねえの?」 「……」 だけどそれは今の私を見てれば、誰もが考えつくような簡単な推理かもしれない。 「俺が戻ってくるまでに着替えてろよ」 レントくんはそう言い残すと部屋を出て、階段を降りて行ってしまった。 私はしばらくレントくんに投げつけられたベージュのトレーナーを抱えて、その場に立ちつくしていた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!