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この温もりをどうしても失いたくないと思う欲が私の気持ちを鈍らせる。
頭ではそんなことをしたって意味がないと理解しているのに、どうしても気持ちがついて来ない。
「……で」
「え?」
「本当の私を知っても……嫌いにならないで……」
お願い。
涙が勝手にこぼれてくる。
口にしても意味のない言葉を、私はそれでも必死に紡いでいた。
嫌われたくない。
好きだから、嫌われたくないよ。
桐谷くんからしたら、何言ってんだコイツって感じだと思う。
それなのに桐谷くんは動揺を見せなかった。
代わりにギュッと力を込めて私を抱き締め直す。
痛いくらいだ。
「それ、俺のセリフかも……」
耳元で熱い息と共に吐き出されるそのセリフに、私の方が意味がわからなくなった。
「本当の俺を知ったら、すみれちゃんは俺のこと嫌いになるかもしれない」
「え……」
言葉を失ってしまう。
それはどういう、意味……なの……?
私達はしばらくお互いに言葉を発することもなく、その場から動くこともできなかった。
ただどちらのものか分からない早い鼓動だけが、お互いの身体にうるさく響いていた。
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