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「桐谷くん……レントくんとは公園で偶然会っただけなの。その……傘を忘れちゃって、制服が濡れちゃってて」
いつも穏やかな桐谷くんの感情的なところを見ると、戸惑う。
だけど同じくらい嬉しいと思う。
桐谷くんがそう思ってくれたことが嬉しい。
「心配かけてごめんなさい……」
「俺ってそんなに頼りにならない?」
「え?」
「俺だけ見てることはできない?」
「……どうして?」
見てる。
私は桐谷くんだけを見てる。
私がしたことはそんなに桐谷くんを不安にさせることだったのだろうか。
私から桐谷くんの顔は見えない。
ただオフホワイトの壁紙が視界に広がっているだけだ。
「すみれちゃん、何かあった?」
「……え」
突然、踏み込まれた場所は私が最も触れられたくない場所で、その為に家にも帰らず着替えまで貸してもらったのに、結局それは無意味に終わってしまった。
公園で濡れていたことも、家に帰りたくなかったことも全部今のでバレてしまったのだから。
桐谷くんには正直に話すしかない、そう決めていたのに。
こんな風に桐谷くんの声を耳元で聞いて、体温を感じてしまったら。
好きだって気持ちだけがどんどん加速していっちゃうよ……。
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