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何重にも色重ねていく手法は相変わらずだったが、そこに描かれるテーマやモチーフは学生の頃とは比べ物にならない。おぞましくも、目を離さすことを許さない圧倒的な世界観があった。普段自分たちが目を背けている世界の闇が描かれている。そう評判になった。
また、次郎の絵はそれを持つものを不幸にすることでも有名だった。
所有するものを謎の変死や事故、あるいは経済的破産に追い込んだ。
すべて次郎のせいにするのはあんまりだとも思えたが、偶然というにはあまりにも立て続けに起きた。その途中で、多くの作品の所在が不明になった
ときが経ち、作家の特異性、作品の希少性から、藻峨見次郎の価値は高まっていった。
中でも処女作である「地獄の犬」は幻の画と呼ばれ、都市伝説めいた噂が流れていた。
それを所持した者は、絵に棲む犬に恐れをなし、まるで奴隷のように振舞うという。間違って作品を無碍に扱うものなら、恐ろしい災難に見舞われる。
ただの噂でしかないのだが、その曰くがさらに作品に価値を高めた。欲しくとも手に入れられない幻の画。藻峨見次郎の「地獄の犬」は、好事家たちの垂涎の的となっているという。
(完)
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