地獄の犬

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「今度の展覧会に出すのは、この中のものじゃないんだな?」  荒川は念を押した。 「はい」  次郎は授業の出欠でも答えるように、さわやかに答えを返す。 「納品まであと半月もないぞ。ラフくらいはできてないのか?」 「それが、本当にまだモチーフは決まっていなんですよ。ラフもないです」 「お前のことだから大丈夫だとは思うが、これを見たら不安になってきた」 「何がですか?」 「これだよ」  荒川は、机の上に本人の描いたスケッチブックを広げて見せた。  次郎は、眉ひとつ動かさない。 「これが、そんなにおかしいですか?」 「当たり前じゃないか」  声が荒げそうになるのをこらえた。  教室には、デッサンをしにきている生徒が他にもいる。彼らの邪魔をしてはいけない。荒川は、さらに小声にして言った。 「ニュースくらいは見ているだろう?」  スケッチされているのは、2Bで描かれた鉛筆画だった。  描画されているのは、苦しんでいる子供たちだ。  刃物で首や腹を切られ、大量の血を流している。  首だけのもの、腕だけのもの。怯えているもの、泣き叫んでいるもの。  リアルな描写で見るに耐えない。 「ああ、あのニュースですか。もちろん見ていますよ。それに想像力が刺激されて、そのスケッチを描いたんですから」     
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