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あっけらかんとした口調だ。
スケッチブックには数ページにわたって、子供たちが殺される過程が描かれてあった。
五、六歳の子供たちが、それぞれ別な方法で殺害されている。
加害者の姿は描かれていなかった。
荒川は、これが一人称で描かれた構図だと気がついた。スケッチの画面は、加害者の視点そのものだ。
「これはただの落書きです」
次郎は再度そう言って、ノートを引き取った。
「ぼくは、本当に描きたいものにまだ出会っていないんです。今回の展覧会は、本気で書きたいと思っています」
明るく振舞っていた次郎の瞳の奥に、このとき初めて翳がさした。
もしかして、お前がやったんじゃないよな。
荒川は、出かかった言葉を呑み込んだ。
「そうか。それなら好きにしてもいいが、くれぐれも父兄や教育委員会に目をつけられるような作品だけは、やめてくれよ」
ニュースでは、幼い子供たちの連続失踪事件がとりただされていた。
すべてこの学校の近隣で起きていた。最初の事件が発覚してからすでに一月近く経つが、子供たちの消息は、いまだわかっていない。
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