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「白は、好きでも……嫌いでもない……」
「なぜですか?」
「なぜ、って……色の好みなんて人それぞれだし、別にどうでもいいだろ……」
「ええ、そうです。そうですとも。人の数だけ好みが違う。合うものもあれば合わないものもある。それは当然のこと。しかし、ええ、ですが……」
少女はすいっ、と杖先を振るった。
闇の中に絵を描くような動きに呼応し、背景となっていた黒色の中にポツリポツリと明かりが灯りはじめる。それは一見、子供がらくがいた家の窓、そこから溢れる明かりのよう。カクカクと不規則な動きで光を揺らすそれは、一つ、二つと、伝染するようにその数を増やしていく。
「白は黒を照らす色。夜空に浮かぶ星々の輝きの如く、その存在を主張する。きらきら、きらきら……」
歌うように紡いでから、少女は一歩、足を前へ。底の厚いブーツの踵をカツカツと鳴らし、少年の近くへと寄っていく。
「私は白。黒いあなたを照らすモノ」
にこりと、美しく微笑した彼女は、どんな絵画や芸術的作品よりも綺麗だった。だが、直後に変化した彼女の姿は、美しさの欠片もない、醜いもの。きっと少年が生きていたならば、その恐ろしき姿を今でも忘れないはずである。
──ごくり。
大きく喉を揺らし、開けていた牙を閉ざした怪物。予想外の食事に満足したのか、一度げぷりと息を吐いてから、怪物は元の姿へ。真っ白な少女へと戻りゆく。
「ああ、悲しい……」
この悲しみはきっと、これから先も忘れられずに彼女の中に巣くうのだろう。なんと哀れで、残酷なことか……。
ふわふわのフリルの下から細い手を覗かせ、杖を一撫でした少女は視線を下へ。張り付けたような薄い笑みをそのままに、黒い涙を一滴こぼし、踵を返す。
「白い色は、お好きですか……?」
告げる少女の背後、蝋燭の火を吹き消したように、揺らめいていた街灯の明かりが焼失。また一つ、街に黒色が増加した。
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