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「またか......」
激安家賃のアパートのドアを開けると、暗い部屋にぼやっと光る人影がある。
私は幽霊を見る事が出来るようになった。それは突然現れて、何も言わず、何もせずに、気がつくとスーッと消えていくだけのものだった。
昔から霊感などは全く無かった為、初めて見た時は驚いたが、二年も経てば恐怖心は無くなり、今では共存していた。曰く付きの物件を借りたのも、早く実家から逃げ出したい、ただそれだけだった。
「あー、もしもし咲かい?」
部屋の明かりを付けて通話ボタンを押す。着信は実家だった、予想はしていたが、やはりこの時期になると、この人から電話がかかってくる。
「何お婆ちゃん、花見なら行かないよ」
「ダメじゃ! 今年こそは――――」
中学の時から毎年同じ言葉を聞いている。会話を遮るように通話終了ボタンを押してスマホをベッドへ投げる。その後私も仰向けに寝転んだ。隣で鳴り続けるスマホを無視して目を瞑ると、お母さんを思い出す。お母さんが居てくれたら、味方になってくれたのかな、見せたかったな、大学生になった私。
潤んだ瞳を開けると幽霊が天井にいた、私は小っ恥ずかしくなり急いで涙を拭き取る。
「もう! どっかいってよ」
煙草の煙りをかき消すように腕を振る。それに合わせて、幽霊は消えた。ハァー、と溜め息をつく。写真立てに入ったお母さんはいつも笑顔だった。
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