➀ ー出逢いー

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➀ ー出逢いー

爽やかに風立つ夏の昼どき、天高く鮮やかに晴れ渡る青空が見下みおろす風景は、山や森や川などの大自然に囲まれた美しい田舎町である。 田舎町といっても区域によっては十分発展しており、人々の賑やかな活気のある声で溢れかえっている。 そんな中、少し町外れの森林近くで数名の子供達の声が響いてきた。 暖かな木漏れ日溢れる夏の杉並木を駆け抜ける少年の足が見える。 少年の名は、加山(かやま) 拓也(たくや) 中学三年生の男子である。 「ほ~らほら! こっちこっちだよ!」 ――俺がそう声をかけると、重苦しそうな足音が小刻みにバタバタ地面を鳴らしながら近いてくる。 「はあはあ……全くあんたは急に走り出して~! これだから男子は~!」 大声が聞こえてくると同時に、 一人の女の子がこちらへ向かって並木の坂道を駆け上がってきた。 ゼェゼェと息を切らしながら駆け上がって来たのは、綺麗な黒髪の女の子だ。長さは丁度、髪先が肩にかかる程度だ。 彼女は適度なアクセサリーの付けられた今どきファッションを着こなすチョイギャル風女子で、ふんわりとしたサイドテールがお似合いのリア充系中学生でもある。そんな彼女が両手を自分の膝に置き(うつむ)きながらハーッ、ハーッと息を切らしている。 細川(ほそかわ) 優芽(ゆめ) 俺の幼なじみでよくつるんでいる女の子だ。 俺はいつものような憎まれ口で返してみる。 「全く、優芽(ゆめ)はだらしないんだよ~ このくらいの坂道でへばっちゃってさっ」 そう言うと、優芽(ゆめ)は荒くなった呼吸を整え、頬を膨らませながらムッとした表情でこちらを睨み言い返してきた。 「ハアァァ!? あんた! ウチ、女の子なんだから少しは労りの言葉をかけなさいよ!  まったくもう!」 「へぇへぇ~ 全く優芽(ゆめ)は直ぐにぷんぷんしちゃってさ~ 走った後にそんな騒ぐと苦しくなるぞ」 そう俺が言った直後、優芽(ゆめ)はゼェゼェと再び息を荒々しくして喋り始める。 「はぁはぁ……全く誰のせいよ!  本当に全くもう!」 こんなやり取りも、幼なじみの優芽(ゆめ)とだからできる一つの茶番劇である。 俺と優芽(ゆめ)がいつも通りな会話を続けていると、今度は眠る赤子に近づく様なゆったりとした足音が近づいて来た。
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