第1章

2/14
前へ
/14ページ
次へ
――これは、ある国の市街地で起きた小規模でささやかな戦争の記録である。  ペンギンの肉は美味しいのかと問われたら私はウィとも否とも答える事が出来ません。あえて言わせてもらうとしても脂っこそうというのが限界です。なぜなら私はペンギンを食べたことも調理した事もありません。ただ一介の調理部で働く学生である私がペンギンの肉などに触れた事があるはずありません。 もっとも生きたペンギンであれば私は毎日だって目にしています。街中には常に沢山のペンギンがうろつき、私は今が戦時中であるという事も忘れてしまいそうなほど可愛らしい風景だと思っています。しかしもっと戦況が悪くなり、人々が飢えたとしてもペンギンを食らう事だけは無いでしょう。街の人に愛されているのも勿論ですがそれ以前に宗教の問題があります。ペンギンは神の使い。食べ物では無いのです。というかでなきゃとっくに追っ払っているに決まっています。  そう、今は戦中なのです。幸いにも私の住む地域には戦の炎は届いていませんが、人々の間にはぴりぴりとした空気は漂い、いつ戦況が悪くなり、食べるにも困ってしまうかという恐怖はいつも付きまとっています。 そんな中のんきに暮らして日々の癒しを与えてくれるペンギンたちを宗教の拠り所にしてしまった私たちを誰が責める事が出来るでしょうか。かくしてこの国の宗教はペンギンを崇める宗教となり、人間から食べ物をくすねるちょっと困った可愛い隣人であったペンギンたちは本人たちも知らぬまま崇められる存在となったのです。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加