BOURBONにシュガーを4つ

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 氷川の言いたいことは重々理解できた。要は役を離れた現実に於いても、恋仲である紫月と共に同じ事務所で役者をしていて、不安や嫉妬という厄介な感情に惑わされることはないのか――ということを心配してくれているわけだろう。いかにも硬派な強面の見てくれに反して、意外や、オトメなところのある氷川に心温まる思いがしていた。  ふと、テーブルの端にシュガーポットを見つけて笑みがこぼれる。そういえばこの店は昼間は喫茶も兼ねていたことに気が付く。 「何? 思い出し笑いか?」 「いや、あいつだったらこの酒にも砂糖を入れそうだなと思ってよ」  ロックグラスを見つめながら微笑う遼二の表情は、そこはかとなくやさしげで、まるで愛しい者に向けられる視線そのものだ。この表情を見ただけで、何も訊かずとも彼の本心が垣間見えるようだった。 「そういやあいつ、すっげえ甘党だもんな。珈琲にも砂糖を三つ? 四つだっけか?」 「四つだな」  そう言って、いかにも甘そうに笑う。
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