日常の中の非日常

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 先程ちらっとさわりを読んだだけだが、どう見ても『誘い受け』と取れる出だしを冷やかすような口ぶりでそう訊いた氷川に対して、一之宮紫月は読み進めていた台本から視線を上げ、チラリと対面を見やった。 「受けって言うなよ……そんでなくても最近タチ役滅多に回ってこなくてヘコんでんだからよー。さっきクマちゃんから受け取ったばっかなのー。今日から読み(台本の読み合わせ)始めるんだと」  クマちゃんというのは彼らのマネージャーで、名を中津川耕治という。歳は三十そこそこの独身で、何ともおっとりとした、人のいい性質の持ち主である。まさにぬいぐるみのクマのような体型も手伝ってか、役者連中の間ではそんなあだ名で呼ばれているのだ。そのクマちゃんから受け取ったばかりの台本を再びテーブルの上に放ると、淹れたてのコーヒーの香りを一嗅ぎしてから、紫月は満足そうにそれをすすった。  それを横目に、彼の手から空いた台本を再び手に取り、氷川は先程の続きに目を通す。 「わ、すっげ! お前、服ひん剥かれちゃうんじゃん! 見事に誘い受け成功ってか?」 「……誘いって、あのなぁ……俺、別にそーゆー気ねえし」
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