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「だってこれ、それ以外の何ものでもねえじゃん。めちゃめちゃにされてえとかさ、すげえ積極的なのな」
「るせーよ。いーからそれ返せって」
「ケチなこと言うなよ。それよかお前、これって相手誰がやんの? さっき本もらったってことは、もしかして俺ってこともあり?」
紫月よりも遅くに顔を出した氷川は、事務所に着いてからまだマネージャーのクマちゃんとは顔を合わせてはいない。つまりは相手役が自分の可能性もあるはずだと、期待に満ちたような表情でそう訊かれて、紫月は半ばニヤけ混じりでわざと知らん顔を決め込んだ。ちょうどその時だ。
「はよーっす……」
事務所のドアが開いて、また一人長身の男が現れた。夏場だというのに革製のジャンパーを着込んで、肩にはリュックのような物を背負い込んでいる。氷川には数センチ及ばないものの、結構な長身で、開けた革ジャンの中から覗いている胸板も逞しい相当な男前だ。少し癖のある黒髪が端正な目鼻立ちに似合っていて、オリエンタルな雰囲気が何とも色っぽい。そんな彼の手に握られていた見覚えのある台本を目にするなり、氷川がすっとんきょうな声を上げた。
「……ッの野郎、遼二! もしか、てめえが今回の相手かよ!?」
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