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パイプ椅子を倒す勢いで立ち上がった氷川に驚いて、遼二と呼ばれた男は怪訝そうに片眉をしかめてみせた。
「いきなり何だ……?」
事務所に着いて早々これでは、訳が分からないのも当然だろう。二人のやり取りを見ていた紫月は、コーヒー片手にクスッと鼻先で笑みを漏らした。
「やっぱお前が相手役かぁ」
「やっぱって何……?」
「いや、これの話! 新しい話の配役、俺の相手は誰がやんのかってコイツがうるせーからさぁ」
手にしていた台本をブラブラと揺さぶりながら事の成り行きを二言三言でそう説明した紫月の言葉を遮るように、今度は氷川自らが身を乗り出して口を挟んだ。
「おいこら、遼二! お前、この台本いつもらったんだよ!」
「は? いつって……昨日の夕方だけど。帰り際にクマちゃんから渡された」
今ひとつ経緯が掴めていない調子で暢気にそう返されて、氷川は大袈裟なくらいのゼスチャーで頭を抱えると、再びどっかりパイプ椅子へと身を沈めた。
「ちぇー! まーたてめえかよー。毎度毎度美味しい役ばっか持っていきやがって……」
「はぁ? オイシイって何よ? さっきっからワケ分かんねえ」
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