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「陸、」
距離を縮めても陸は逃げない。壁と私の間に挟まれ、煽るように私を見つめている。
緊張して、体中が熱くて、きっと私の心臓はおかしくなっている。陸の近くにいけばいくほど、焦れた思いが頭を支配するのだから。
陸の頬に触れて、撫でる。触れた方もこんなにあたたかな気持ちになるなんて知らなかった。指先から生じた熱が欲が生まれて止まらない。
もっと近づきたくて、触れたくて、何度も『好き』だと告げていたあの唇が、恋しくてたまらない。
その衝動に突き動かされて、急いた思いが影を落とす。
私の長い髪の毛がぱさりと落ちて、二人きりの場所を生み出すカーテンのようだった。ここが学校の廊下なんて忘れてしまって、あるのは柔らかな口づけだけ。重なった吐息に、私たちが溶けていく。
唇が離れて、重ねていた唇が冷えていくと共に恥ずかしさがこみあげる。その顔をまともに見られず離れようとすると、陸の言葉が引き止めた。
「これが返事って……ねーちゃんと付き合ってもいいの?」
「で、でも陸はあの子と付き合って――」
「付き合ってないよ。オレ、ねーちゃん一筋だから。あれは傘を忘れたから入れてもらっただけ」
付き合っていないのだと知って、ほっと安堵の息を吐く。
気が緩んだその瞬間に、もう一度チャイムが鳴った。今度は朝礼が終わった合図だ。
次の授業のために生徒たちがやってくるだろう。私たちも教室に向かわなければ。
「そろそろ、行こっか」
「やだ。行かない……こっちきて」
私の提案を跳ねのけて、陸は歩いていく。
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