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陸の言った通り、雨の日が続いた。大雨ではないけれど傘が必要になる程度にしとしとと降る雨は、一人で登校するようになってしまった私の気持ちと似ていた。
その日の朝も、雨が降っていた。ずるずると長引く雨に憂鬱な気持ちになりながら傘を開く。そして一人で学校に向かっていた時だった。
「陸くん、宿題やった?」
その名前に振り返って――見ては、いけなかったのだと後悔をした。
通学路には生徒たちがたくさんいるというのに、あの廊下の時と同じように、見つけてしまったのだ。
陸と、その隣には一年生の女の子。
二人で一本の傘を使って、親しげに話している。まるで私が想像していたような恋人同士の姿。
傘も雨も、色々なものが滑り落ちていく。私の周りだけ大雨が降ってしまったかのように、ごちゃごちゃとした感情が残る。
五回も告白を断ったのだから、こんな結果はわかっていたはずなのに、今になって気づいてしまう。
鼓膜が、寂しいと泣いて、求めていた。
六回目を聞くことはないのだろう、陸の声を。
五回も刻まれた陸の『好き』が、今度は私じゃない誰かの耳に刻まれる。あのデザートよりも甘い声で、名前を呼ぶのかもしれない。
それは私ではない、あの女の子。
「やだ!」
叫ぶと同時に私は走り出していた。
放り投げた傘の行き先も、水たまりを踏み抜いたことも忘れて、ただ走った。
胸が痛くて、苦しくて、解放されたくて――陸の手を掴んだ。
「えっ、ねーちゃん?」
「来て!」
「ちょ、痛っ、ひっぱるなって……!」
だって、陸のことが好き。
好きだから、この手を離したくない。
意識してこの関係が崩れてしまうのが怖かったから、陸は弟のような存在だと言い聞かせていたけれど、あの指先や声が他の女の子に向けられてしまうのは、もっと怖い。
こんな形で私と陸の関係が終わってしまうのは、もっともっと怖い。
静止の声も聞かず、陸の手を掴んだまま学校に向かう。周りから見れば三年女子が一年男子を引きずっていく光景で、変な噂が流れるかもしれない。でも構わなかった。
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