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朝礼開始のホームルームが鳴ってようやく私は足を止めた。考えこんでいるうちに相当走っていたらしく、気づけば一年や三年の教室から離れた家庭科室の前にいた。
振り返れば、陸がいる。そりゃそうだ、ずっと手を掴んでいたのだから。
「ねーちゃん……足、はや……」
陸も私もすっかり息はあがっていて、二人して壁にもたれかかって座りこむ。
生徒たちは今頃朝礼だろう。家庭科室の前は静かで、私たちしかいなかった。
「朝からマラソンなんて勘弁してよ……」
「ごめん……急に連れてきちゃって」
「それで? 話があるから連れてきたんでしょ」
うんざりとした顔の陸に促されて、私は俯く。
「陸は……あの子と付き合っているの?」
「あの子って――ああ、一緒の傘に入ってた子?」
「二人で歩いてるところ見ちゃったから……気になって……」
おそるおそる顔をあげれば、陸は不機嫌そうに眉を寄せていた。
「ねーちゃんには関係ないよ。それともオレが他の子と付き合っちゃだめ?」
目の前にいるのは陸なのに気が張ってしまう。幼馴染の関係が無くなってしまって、私が敵になった気分だ。空気が重たくて、喉がひりつく。
「いや……だ」
「何それ。じゃあ誰ならいいの? ねーちゃん公認の相手は誰?」
「それは――」
気持ちを伝えることは、とても怖い。
もしも間に合わなくて陸が誰かと付き合っていたら。もしも陸に拒否されてしまったら。最悪の結果ばかりを想像して、このまま逃げたくなってしまう。
陸は、この恐怖と五回も戦ってきたのだ。冗談のように受け流していたけれど、勇気のいることだったはず。
手を伸ばせば届く距離にいるくせに、私よりもずっと先を進んでいる。好きという気持ちの辛さも、陸は知っているのだ。
だから私も、近づきたい。
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