5回までオトコノコ

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***  朝礼開始のホームルームが鳴ってようやく私は足を止めた。考えこんでいるうちに相当走っていたらしく、気づけば一年や三年の教室から離れた家庭科室の前にいた。  振り返れば、陸がいる。そりゃそうだ、ずっと手を掴んでいたのだから。 「ねーちゃん……足、はや……」  陸も私もすっかり息はあがっていて、二人して壁にもたれかかって座りこむ。  生徒たちは今頃朝礼だろう。家庭科室の前は静かで、私たちしかいなかった。 「朝からマラソンなんて勘弁してよ……」 「ごめん……急に連れてきちゃって」 「それで? 話があるから連れてきたんでしょ」  うんざりとした顔の陸に促されて、私は俯く。 「陸は……あの子と付き合っているの?」 「あの子って――ああ、一緒の傘に入ってた子?」 「二人で歩いてるところ見ちゃったから……気になって……」  おそるおそる顔をあげれば、陸は不機嫌そうに眉を寄せていた。 「ねーちゃんには関係ないよ。それともオレが他の子と付き合っちゃだめ?」  目の前にいるのは陸なのに気が張ってしまう。幼馴染の関係が無くなってしまって、私が敵になった気分だ。空気が重たくて、喉がひりつく。 「いや……だ」 「何それ。じゃあ誰ならいいの? ねーちゃん公認の相手は誰?」 「それは――」  気持ちを伝えることは、とても怖い。  もしも間に合わなくて陸が誰かと付き合っていたら。もしも陸に拒否されてしまったら。最悪の結果ばかりを想像して、このまま逃げたくなってしまう。  陸は、この恐怖と五回も戦ってきたのだ。冗談のように受け流していたけれど、勇気のいることだったはず。  手を伸ばせば届く距離にいるくせに、私よりもずっと先を進んでいる。好きという気持ちの辛さも、陸は知っているのだ。  だから私も、近づきたい。
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