0人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、付き合ってから半年ほど経った頃、初めてのホワイトデーに彼から貰ったものだった。年下で、今まで女の子と付き合った経験のない彼が選んだのは、可愛らしくラッピングされた入浴剤のセットだった。
少し戸惑いながらも「ありがとう、使うのが楽しみだなぁ」と微笑んで、私は一人「入浴剤」というプレゼントに思いを馳せていた。
私はよく友人へのプレゼントとして入浴剤を選ぶのだが、可愛くて種類が豊富で値段もお手頃、かつ消耗品なので処分に困らない。要するに無難なのだ。
私自身も入浴剤を貰うことは多いし、自分には買わないのでそういった意味ではある種「時間をかけてお風呂に入る」というイベントのキッカケにもなるのだが。
それにしても、ホワイトデーは何かしらのお菓子でいいのでは……なんて考えながら家に帰り、せっかくだからと浴槽にお湯をはってみる。彼がくれた入浴剤をぽとんと落とすと、柔らかな香りと色が湯船に広がっていった。
柔らかな香りに包まれながら湯船に浸かっていると、少し考え方も柔らかくなっていくような気がしてくる。
(まだ肌寒い日もあるから、ゆっくりお風呂に入ってほしいという思いがあったのかな)(あの子、優しくて気が遣える子だから……)
さっきまでの戸惑いはどこへやら、お風呂の温かさに全て溶け出してしまったようだ。
髪を乾かしながらふと、彼にLINEしようと思った。
「入浴剤のおかげでゆっくりお風呂を楽しめたよ、ありがとう」
今は少しだけ積極的に想いを言葉にして伝えたい気分だった。
最初のコメントを投稿しよう!