プロローグ

2/3
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 忘却(ぼうきゃく)。  秋風(あきかぜ)は□□の体をプルプルっと身震(みぶる)いの出るほど寒くサァーッと吹く風でより一層に寒さが際立つ。  ──なんだかつまらないな。  重くのしかかる疲労とろくに寝れやしない不眠に体は悲鳴をあげていた。  それもじきに止むのだろう。  体はそのうちに慣れてしまうと思い込めばなんとでもなる。  ただ、□□は自分の体臭に顔を歪めた。  さすがに、一週間入らずは体臭以前に異臭が服から皮膚から臭うのだ。お金さえあれば何でも出来るは(いささ)か安易な考えだった。  列車に乗って遠くまで来た。服屋に入るのは勇気がいるが、そんなチェーン店とかではなくてオバサンが服を売っている場所で一週間ぶりに新しい服に替えて、少し歩いた先の銭湯に通っては体を清潔にした。  夜を過ごす場所は宿やホテルなどお金がかかるのは勿体ないために野宿をした。柔らかい布団や快適な空間は無理だけれども、膝を抱えて寝たりするのにはもう慣れた。食べ物の心配なんて論外だ。  でもそれは、お金があるうちだけ。一週間ぶりに替えた所でまた臭うのは一緒なのだ。いくら体を洗おうと銭湯に通いつめていてもツンっとした癖のある異臭は結局現れるのだ。  身なりは大事だ、と□□は思うのだ。十歳にして小汚ない格好をしていれば不審がって他人の注目を浴びて捕まってしまうかもしれない。まぁ、別にそれはそれで構わないのだけれども。  突然、お腹がきゅーっと悲鳴をあげた。ゆっくりと道の端に腰を下ろして秋風の夜にあたる。  秋の終わりに吹く風はあまりに不意打ちで体温を奪っていく。厚手の服を買っておくべきだった。□□は身震いをしながら悔やんだ。  ──限界かな。  大人たちに見つかって連れ戻されたとしても家族は両親は心配なんてしてない。むしろ居なくて清々(すがすが)しいくらいだ。  □□はふと、どこかで見た行方不明のポスターを思い出す。  行方不明と、言っても見つけたらお金が貰えるわけでもない。正直、探すのは両親くらいだろう。友達も行方不明になった子に関連している人達でさえ探すことを諦めるのだろう。  そのうち、両親も諦めると思うのだ。  いいや、諦めないか。せっかく育ててお金を行方不明の子に貢いだのだからそれまでの分が全てまっさらになってしまうのは痛いよな。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!