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風呂の給湯完了を知らせる音で目が覚めた。
ソファで眠ってしまっていたらしい。
今の給湯器はとても便利で、3年前に他界した祖父がみたら、きっと驚くだろう。
東京での一人暮らし、条件はバス・トイレ別、と決めていた。
このワンルームマンションにあるこの白い、やや洋風な風呂場は、実家の水色のタイルが敷き詰められた風呂場よりもこころなしか明るい。
一人暮らしをするまでは、毎月の光熱費がいくらするとか、仕事が忙しくてシャワーだけで済ませがちだった月は驚くほど料金が変わるなんて、知りもしなかった。
けれど、やっぱり湯船に浸かって一日を振り返る時間はとても大切で、なによりも、祖父が口にした"しあわせ"を今なら少しだけ、理解できる気がする。
今日は五月………、日付がもう変わってしまったので、厳密にいえば六日だけれど、今から端午の節句をしたって、きっとそのくらいは多目にみてもらえるだろう。
帰り道のスーパーで安売りしていた菖蒲湯の入浴剤をそっと湯船に溶いてみる。
薄緑をしたお湯に浸かって、自分の手のひらを見つめた。
僕はいま大きく、逞しく、育っただろうか。
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