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その日の夜は、半ば引っ張り出されるように風呂を出てから、夕飯抜きが言い渡され、部屋でいじけていたコウイチは、とうとう空腹に耐えかねたのか、諦めて先に寝てしまった。
僕はなんだかずっと眠れなくて、椅子に座りこんでいた。
夜中、控えめなノックの後におじいちゃんが部屋に入ってきた。コウイチがベットですっかり眠っているのを見てから、僕の方を見て、「ケンイチは眠れないのか」と聞いた。
おじいちゃんの声色にもう怒りの色が見えないことに少し安堵しながら、僕はおずおずと頷いた。
おじいちゃんは僕の横に腰をおろして、僕の手にそっと何かを握らせた。
それは真っ白くてつやつやした柏餅で、僕は訳も分からないままおじいちゃんの顔を見た。
「腹、減っただろう」
「いいの……?」
「ちゃんといただきます、してからな」
それじゃあ、と小さくいただきますと呟いて柏餅にかぶりつくと、あんこの甘さが口いっぱいにひろがった。
「今日、夕飯が抜きでどんな気持ちだった」
おじいちゃんはどこか遠くの方を見ていた。
「腹がへって………反省した」
「そうか……」
遠くの方を見ていたおじいちゃんが僕の目を、じっと見つめた。
「まだ早いかもしれないけれど、きっとケンイチならわかってくれると信じて、お爺ちゃんの昔の話をしよう」
その目が、あんまり悲しくて、僕はあわてて口に残っていた柏餅を飲み込んだ。
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