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それからおじいちゃんは、戦争の話をした。
毎日の食べるものがなくて、いつもお腹を空かせていて、子供たちはこんな風に甘い柏餅なんて食べれやしなかったこと。
おじいちゃんは戦地で、それがなければみんな生き延びられない、そんな大切な物資の水を、敵から守りながら命がけで運んでいたこと。
いまは蛇口を捻れば当たり前に水が出て、いつでも温かいお風呂に入ることができて、とてもしあわせな時代だ、とおじいちゃんは言った。
そして今日はそんなしあわせな時代に、しあわせな時代だからこそ、子どもの成長を祈る日なのだ、と。
こんなにもあたたかい時代の中で子供が、大きく、逞しく、育つように。
おじいちゃんの話したことが大変なことだということはわかるのに、なんだかそれが上手く言葉にできなくて、柏餅の匂いと共に、いつまでも指先にこびりついているようだった。
「もう一度じいちゃんと一緒に風呂、入り直すか」
そう言って立ち上がったおじいちゃんの背中を、僕はあわてて追いかけた。
湯船には緑色の葉が浮かんでいた。
おじいちゃんの背中を流して、狭い湯船に一緒に浸かると、なんだか気恥ずかしくて、そっとおじいちゃんの手を見た。
いつもより更にしわしわで、いつか理科の授業で見た木の年輪みたいだと思った。
自分の手を見たら、僕の手もしわしわで、おじいちゃんみたいだった。
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