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暗黒物質が錬成されるまで
「俺、食事は殆ど外食で済ませてるんだ。」
付き合いだして間もない彼は、電話でそう言った。
「手料理に飢えているんだ…。」と嘆いていた。
「作ったりしないの?」
と私が聞くと、
「うち、片手鍋とザルしかないから、蕎麦くらいしかできない。」
とさらに落ち込んだ。
炊飯器もない、オーブンレンジもない。
そもそも作る気ないじゃん!と思いつつ、私は彼の食生活が心配になり、一度様子を見に行く事にした。
様子を見に行くと言っても、私は静岡、彼は東京在住の遠距離恋愛だった。
彼があまりに駄々をこねるので、さっそく次の週末の午前から彼の家に行く事にした。
彼のマンションに訪れるのは、実はこれが初めてだった。
少し潔癖症のある彼の部屋は、清潔で片付けられていたものの、家具はパソコンデスクにベッド、テーブルに少しの本があるくらいで、生活感は全くなかった。
キッチンはこれでもかというほど未使用感が溢れていて、引き出しをあけると菜箸がコロンと転がっただけだった。
なるほど、調理器具は殆ど無い。
唯一ある片手鍋も小振りな物で、カレーすら作れそうにない。
冷蔵庫があったのが救いと言ったところか…?
しかし、料理が得意というわけではない私は、さすがにお手上げだった。
この状況でも何品も作れる人はいるのかもしれないが、私には不可能だった。
そこで、とりあえず調理器具を買いに、私と彼は出掛けて行ったのだった。
その夜、私はありがちだがカレーを作っていた。
カレーなら野菜をたっぷりいれられるし、大きめの鍋一杯に作っておけば冷凍もできる。
コンロが3口あったので、さらにコンソメベースの野菜スープを追加する事にした。
プラス野菜サラダでは野菜だらけかとおもったが、野菜が足りていないだろうから、これも追加しておこう。
そして1番困ったのがご飯だ。
炊飯器はまだ買っていなかったのである。
炊飯器と鍋があれば自炊できそうなものだが、彼の買い物の優先順位はよくわからない。
しかし私も、「炊飯器がないなら鍋で炊けば良いじゃない。」という発想の持ち主だったので、鍋で米を炊く方法を調べ、さっそく実践した。
鍋を使って炊くのは初めてだったが、難しい事はとくになく、寧ろ早くて美味しい気がした。
炊き上がりに満足そうな私を見て、彼は「おぉー。」といいながら手を叩いた。
その晩は仲良く美味しく、夕食を頂いた。
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