インスタントブルーマウンテン

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インスタントブルーマウンテン

ある日のこと、彼の家でくつろいでいるときだった。 …珈琲の良い香り。 彼が、ペーパードリップで珈琲を入れてくれたのだ。 私が通うことになったことで、彼の家のキッチン用品は充実した。 キッチンだけでなく、今までなかったテレビも設置された。 しかし、彼は炊飯器だけは頑なに買おうとしなかった。 …オーブンレンジは買ったのに。 なんでも、鍋で炊いたご飯が気に入ったようで、彼の家では必ず鍋を使用する事になってしまった。 ちょっと失敗だったかと思った。 「お待たせ。」 彼が珈琲を持ってきてくれた。 ありがとう、と言って受け取ると、私はさっそく頂く事にした。 …に、にがっ!? 苦いと言うか濃いというか、濃すぎて心なしかドロリとしてる!? 私は思わず、むせてしまった。 「今日はお前が来ると思ったから、珈琲豆専門店でブルーマウンテンを買って来たんだよ。」 …これブルーマウンテンなの!? 味は完全に分量を間違えたインスタント珈琲だった。 「あ、ありがとう。」 私はとりあえずお礼を言った。 私は珈琲の味がわかるわけではないが、これは…ヒドイ。 「ごめん、牛乳もらうね。」 私は「苦いの苦手ですぅ。」とばかりに、カフェオレに切り替える事にした。 …駄目だ、何をやってもインスタント珈琲風味と苦みが緩和されない…! 私は一気に飲み干して誤魔化そうとした。 すると、 「おかわりは?」 と恐ろしい問いが飛んできた。 私は「ちょっとお腹いっぱいになっちゃったから。」と嘘を付いた。 …とはいえせっかくのブルーマウンテン、無駄にするわけにはいかない。 「次は私が淹れるから、良かったら見ててくれる?」 私は彼のプライドを傷つけないように、「たぶんうちと淹れ方違うんだよ。」と私が言った。 彼は「ふーん。」と返事をした。 その割に、彼に分量の量り方や淹れ方を事細かに教え込んだのは、言うまでも無い。
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