ダシorコンソメ

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ダシorコンソメ

「バトミントンの合宿が二泊三日であるんだけど、一緒に来ない?」 ある日、彼からそんな電話がかかってきた。 彼は会社でバトミントンサークルに入っていて、その合宿があるという。 毎年家族単位で参加があるそうで、彼が私を彼女として公に紹介したいと言ってくれたのだ。 私は彼の言葉に有頂天になり、その場で参加すると答えた。 バトミントン合宿は、山の中にあるコテージをいくつか借りて行われた。 調理器具や食器は整っているので基本自炊、お風呂は二つ、それから各家族単位に個室が割り振られた。 初めてのコテージでの宿泊に、私は興奮しっぱなしだった。 夕食の時間が近付くと、各家庭の代表が調理に取りかかった。 私も手伝おうとすると、 「お前はお客さんって事になってるから、食事の準備はお任せしちゃって大丈夫だよ。」 と彼が言った。 私はお言葉に甘えて、食事の時間までコテージに来ていた子供達と遊ぶ事にした。 …ここまでは順調だった。 夕食時。 彼が料理にはまっているという話は、会社の中でも有名な話だった。 何でも、最近は昼食に手作りのお弁当まで持っていっているそうだ。 そんな話で盛り上がりながら、私は目の前に置かれたお椀を手に取った。 お椀だったのでお吸い物かと思ったら、コンソメスープだった。 この人数だし、適当な食器が全員分用意出来なかったのだろう。 そんな事を思っていると、彼もお椀を手に取った。 すると彼が、 「これおいしいですね!何で出来てるんですか?ダシと、醤油と…」 と、とんでもない事を口にした。 テーブルに付いていた全員が凍り付いた。 私もしばらく固まっていたが、 「コンソメだよおぉぉ!!」 と思わず大声を出した。 一体どうしたらダシとコンソメを間違えられるのか。 仮にも料理好きが! 彼の味覚は完全に明後日の方向に飛んでいってしまっているらしい。 この日の出来事を、私は今でも忘れる事ができない。
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