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「猫になりたい」 そう言って、彼女はため息をついた。 「猫になって、彼に愛されたい」、と。 にゃあと鳴けば、頭を撫でてもらえる。 同じ布団で寝れば、幸せそうに微笑んでくれる。 ふらっといなくなれば、心配してくれる。 愛猫家の彼は、彼女になびかないらしい。 「でも君は、人間なんだから」という言葉を僕は飲み込んだ。 彼女はもう充分、人間としての努力はしていたのだ。服や化粧に気を遣い、料理を覚え、丁寧に働き、彼の好きなものを知ろうとした彼女のことを、誰が責められよう。 僕はただ、もう彼女の言葉を肯定も否定もできない。繰り返されてきた会話の中で、僕は彼女が答えを欲しているわけではないことを知っているし、彼女もまたそれを分かっているからだ。 そして頭のいい彼女は、僕が「愛猫家になりたい」とため息をつきたいことも分かっている。分かっているのだ。 あぁ、それでも君が猫になりたいと言うのなら、僕は何になればいいのだろう。あまりにも、あまりにも荒唐無稽だけれど。
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