11人が本棚に入れています
本棚に追加
「うゎ~」
思わず声を出してしまった。
こんなこと本に書いてなかった。
腕の中の君は温いお湯の中で、気持ち良かったんだよね?
僕は間違えてはいないよね?
これは罰ではないよね?
君の尿意を顔で受け止める。
左手で君の耳を押さえたまま、右手で君の体を支えているからどうすることもできない。
叫び声を聞いて、君の母がバスルームのドアを開ける。
「どうしたの?!」
「オシッコした。顔にかけてくれた・・」
僕の妻でもある君の母、愛ちゃんが声をあげて笑う。
「赤ちゃんのオシッコは、どんな名水よりも綺麗だからね。ちゃんと洗えた?耳にお湯入れてない?
どうでした?念願の初入浴。
結構たいへんでしょ?
二日に一度はお願いね、なるべく早く帰ってきて」
愛ちゃんは一方的に話すと、バスタオルを広げて君を僕から受け取った。
君は母に抱かれて、キャッキャッと声をあげている。
「パパとお風呂気持ちよかったねぇ~。怖くなかったでちゅか~」
そんな言葉を残した愛ちゃんに抱かれて、君は行ってしまった。
ずっと楽しみにしてたんだ。
産声を聞いたあの日からずっと。
沐浴じゃなくて、こうして一緒に湯船に浸かる日を。
二日に一度。
もっと上手になるから。
お腹のタオルが落ちないように。
育児本に書いてあった。
〈赤ちゃんは、湯槽の中ではお腹の上にタオルが広げられていると安心できます〉
って。
〈fin〉
最初のコメントを投稿しよう!