狭いバスルームの中で

2/2
前へ
/3ページ
次へ
「うゎ~」 思わず声を出してしまった。 こんなこと本に書いてなかった。 腕の中の君は温いお湯の中で、気持ち良かったんだよね? 僕は間違えてはいないよね? これは罰ではないよね? 君の尿意を顔で受け止める。 左手で君の耳を押さえたまま、右手で君の体を支えているからどうすることもできない。 叫び声を聞いて、君の母がバスルームのドアを開ける。 「どうしたの?!」 「オシッコした。顔にかけてくれた・・」 僕の妻でもある君の母、愛ちゃんが声をあげて笑う。 「赤ちゃんのオシッコは、どんな名水よりも綺麗だからね。ちゃんと洗えた?耳にお湯入れてない? どうでした?念願の初入浴。 結構たいへんでしょ? 二日に一度はお願いね、なるべく早く帰ってきて」 愛ちゃんは一方的に話すと、バスタオルを広げて君を僕から受け取った。 君は母に抱かれて、キャッキャッと声をあげている。 「パパとお風呂気持ちよかったねぇ~。怖くなかったでちゅか~」 そんな言葉を残した愛ちゃんに抱かれて、君は行ってしまった。 ずっと楽しみにしてたんだ。 産声を聞いたあの日からずっと。 沐浴じゃなくて、こうして一緒に湯船に浸かる日を。 二日に一度。 もっと上手になるから。 お腹のタオルが落ちないように。 育児本に書いてあった。 〈赤ちゃんは、湯槽の中ではお腹の上にタオルが広げられていると安心できます〉 って。 〈fin〉
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加