狭いバスルームの中で

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狭いバスルームの中で

その腕にそっと触れる。 君は小さな声を漏らす。 愛しい。 君のそんな小さな声が愛しい。 思わずニヤケてしまいそうになる。 でも落ち着け。 もっと冷静に。 君に幸せなひとときと感じてもらわなければ。 この貴重な時間を楽しみ、 しっかりと味あわなくては。 心に刻み込むんだ。 僕たちの初めての夜を。 柔肌にもう一度、そっと触れる。 強すぎてはダメだ。 初めての君を、怯えさせてはいけない。 小さく君が漏らした声に、心臓を捕まれるみたいな人生初の快感と、幸福感に包まれる。 僕だって初めての経験だから、実はこっそり勉強したことは君には言えないね。 そんなこと感じさせたら、君を不安にさせてしまうから。 君の耳に触れる。 強すぎても、弱すぎてもいけないよね。 指先に優しさをこめて。 本当は僕も緊張してるけど。 優しく。 狭いバスルームに、君の小さな声が響く。 小さなエコーがかかる。 たまんない。 これでいいのかな。 大丈夫なのかな。 僕はもう一度、ゆっくりと小さく深呼吸をする。 君が少し体を捻った。 ダメだったかな? 強すぎたかな? もっとそっと触れなければいけないのかな。 マニュアル世代と言われるかもしれないけれど、書いてあったことを思い出せ、思い出せ。 君はまた小さく声を出した。 小さな興奮の中で、少し微笑んでいる風に見える。 間違えてはいないよね? そもそも正解とか間違いとかあるのかな。 できれば毎日でも、君とこうしていたい。 柔らかな脚に触れたとき、君が胸元を覆っていたタオルを落とした。 そっと抱き寄せて、右手を君の背中にまわす。 あらわになった君の胸と僕の胸を重ねる。 小さくて少し早い鼓動が、僕の鼓動に重なる。 この日を待っていた。 何度も頭の中でシミュレーションしていた。 恥ずかしくて、人には言えないけど。 でも現実は予想外のことを引き起こすかもしれない。 冷静に。冷静に。 初めて二人で過ごすバスルームに、僕の鼓動が響いている。 左手をもう一度、君の耳に。 君が大きく体を捻った。 気持ちよさそうに。 そしてまた、小さな声を漏らす。 たまんない。
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