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そうだね。色々あったけど、この後も色々あるだろうけど…。アタシ達がお説経されている間に、他の生徒達はほとんど下校してしまった。すっかり暗くなった空を仰ぐと、晴れた空に明るい月がかかっている。アタシ達の足元には月明かりで照らされている。暗い中でもお月様があれば、歩いていける。無かったら、ヘッドライトで照らせばいい。始まったばかりの高校生活だけど、自分で行く道を照らし、誰かに照らされ、走って行こう。アタシ達のレースはまだスタートしたばかりなんだ。
「まだ学校に生徒がいるのか?」
その時、学校指定の作業着を着た生徒が一人、校門の外を歩いていた。学園祭が終わったばかりの高校に何か用があったのだろうか?彼がリードを引くと彼の影に隠れていた柴犬が顔をのぞかせた。犬は校門から出てきた数人のグループを見つけると、知った人でも見つけたかのように走り寄ろうとする。彼はリードをグイと引き、飼い犬の行動をたしなめると、反対方向に歩き出した。
「行くぞ、サクラ。」
犬は一度校門を振り返ったが、再度引かれたリードに諦めて従った。やがて飼い主の彼に引かれて学校を囲む高い塀の影に消えた。一度誰かを呼ぶように吠えたようだが、犬を叱る低い声がした後は静かになった。
アタシは後ろを振り返った。犬の吠える声が聞こえた気がしたから。
「…サクラ?」
立ち止まったアタシに夏子が寄ってきた。
「ちえり?どうかした?」
アタシは校門の方に目を凝らすけど、何も見えない。
「なんでもない。」
アタシは自分に言い聞かせるように呟いた。
「なんでもないよ。行こう!」
アタシ達は月明かりに照らされた道を進み始めた。
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