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もう後戻りはできない。決して失敗するわけにはいかない。
信じなければならない。疑ってはならない。
「すまない。僕は臆病だから」
リストから、一人、二人と名前が消えていく。
「慎重に、慎重に、慎重に事を進めなければ気が済まないんだ」
戦闘職の者はみんな、攻略へと向かい死んでしまった。残るは非戦闘職の者のみ。吟遊詩人のときの自分のように、ただ為す術なく理不尽な暴力を受け入れるしかない者のみ。
「絶対に、絶対に失敗するわけにはいかない」
最初にいた550人のプレイヤーは最後の一週間には200人近くまで減っていた。自分の住処があった村には十五人。その人たちを一時間もかからないうちに、僕は全員殺した。
刃が極力見えぬよう殺した。先端恐怖症などの心的外傷を植え付けないよう、気を払った。顔は狙わない、頭は狙わない。一番良いのは背中から致命傷となる一撃、相手が気付かぬうちに殺すことだった。
ごめんなさいと、心の中で謝りながら切った。
堪え切れず、すまないと口に出したこともあった。
そうして、一日が終わり――誰もいない町の中で一人、笛を吹いた。
「せめてもの手向けとして、笛の音を――」
戦いの日々に飽いて、吟遊詩人へと職替えを行ったのは何年前だろう。ターリアと出会う前だったから、少なくとも一年以上は前だ。
戦士職へと戻った今となっては、いくら楽器を奏でたところで効果はないけれど――それでもソロプレイヤーとして、嫌がおうにも力を付けなければならなかった時とは違う、自分が真に“ハーメルン”として生きてきた証だから。
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