40人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は、残っている細い道を走ってみた。すると、更地を抜け、家が多くなってきた頃に遠藤商店という店を見つけた。
車を止めて遠藤商店に入ってみると、人の気配が無かった。
「すいません。どなたかいらっしゃいますか?」
店内には菓子などもあるが、箱詰めになっている野菜などもあった。その野菜は、送り状などが用意されていて、これから個人宅に配送になるらしい。
「はい。どなた?」
若い男性が、エプロン姿で出てきていた。
「あの、遠藤 貴一さんですか?」
「そうだけど、誰?」
不審そうに見られてしまったので、俺は鞄に入れっぱなしになっていた、名刺入れを出した。
「何かの、売り込み?」
追い出されそうな気配になったので、俺は慌てて首を振った。
「館野 幸多さんを知っていますよね?」
館野の名前を出すと、遠藤がまじまじと見ていた。
「館野の知り合い?」
「知り合いという程でも無いのですが……」
どこから説明したら良いのか分からずに、俺は暫し固まってしまった。しかし、時計を見ると十二時で、ここには館野の名刺がある。名刺を見ると、携帯電話の番号もあった。
俺は館野に電話を掛けてみた。
「あの、喫茶店ひまわりの上月です。たまたま、仕入で館野さんの故郷に寄ったのですが、遠藤商店は位置が変わりましたが、ありますよ」
「……え?そうなの?そこの電話番号は分かる?」
電話番号が分からなかったので、遠藤に電話を代った。
「本当に館野なの?全然、連絡が取れなくなってさ……あれから、七年?」
互いに電話番号を教え合うと、一旦、電話を切っていた。
「不思議だよね……そんなに遠いわけでもなかったのに、連絡方法が無くなっていた……」
遠藤は店先だが茶を入れてくれて、経緯を教えてくれた。
「火事だったよ。深夜の二時だったかな……俺の家族と俺は、その日は葬式でこの地を離れていた」
帰って来たら、家が燃えて無くなっていただけではなく、周囲も皆、消えてしまっていた。
「俺は、家に携帯電話を忘れてしまっていてね。皆の連絡先も消えてしまった……」
それでも、地元には残り、両親と店を再建したらしい。
「通販でさ、野菜とか漬物とか、あれこれ地元の品を売っている……」
館野の事を探したが、どうしても連絡が付かなかったらしい。
最初のコメントを投稿しよう!