第五章 朱火定奇譚 肴

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「志摩、モモコが呼んでいるから、外に出てみるよ」 「そうですね、かなり泣いていますね」  志摩の箪笥から外に出てみると、囲炉裏の前でモモコが一升瓶を抱えていた。 「モモコ?」 「ワオン、ワンワン」  酒の魚を持って来いと、モモコが吠えていた。志摩が、ドッグウードを出すと、モモコがニコリと笑った。 「モモコ!そのお酒は、秘蔵酒でしょ?それを飲んでおいて、魚ですか?」  モモコの笑顔に怯まない志摩も怖い。 「キャイン?」  モモコが持っている一升瓶は、今日、購入したものだろう。山間酒造のどぶろくであった。 「ワンワンワン、ワワン」  酒は悪かったが、ドッグフードは嫌だとモモコが駄々をこねていた。モモコがドッグフードを食べている姿を、俺は見た事が無かった。  モモコと志摩が睨み合っているが、どちらも譲りそうにない。俺は、モモコから酒を奪うと、焼き魚を出してやった。 「ワンワン、ワワン」 「守人さん!そうやって、守人さんが甘やかすので、モモコが我儘になるのです!」  俺まで、志摩に怒られてしまった。 「モモコ、酒は美味しかったか?」 「ワン!」  どぶろくは、美味しいらしい。俺は一升瓶をもう一本持ってくると、自分に注ぎ、モモコの皿にも注いでやった。酒を口に含むと、辛口であるが、どこかさっぱりとしていて、魚に合う。 「守人さん!湯呑で酒を飲むのは、のんべえみたいなので、止めて下さい!」  一回に飲む量が、湯呑で丁度いいのだ。 「志摩、では、コップでいいかな?」  冷酒なので、コップ酒というのもいい。 「……守人さん、スルメと、エイヒレです。それとマヨネーズ」  何だかんだ言っても、志摩も甘いのだ。
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