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ある満月と満開の桜が綺麗な夜。
近所の公園にある桜の木の下に1人の男性を見つけた。彼は、この時代ではあまり見ない紺の着物を着物を着ていた。
「何してるんですか?」
なんとなく気になって声をかけると、彼は目を見開いて私を見つめた。
「あまり、着物を着ている人は見かけないので」
私は慌てて付け足す。その言葉を聞いて彼は表情を元に戻し、桜を見あげた。
「今年も立派に咲いたと思ってね」
桜を見つめる彼の瞳は優しかった。
「満月の日に見るこの桜は凄く綺麗なんだ。妻がすごくこの桜が大好きでね」
もう死んでしまったが、そう言いながら彼は苦笑した。
「この着物も妻がくれたんだ。1人でもこれを着ていると妻もいる気がしてね」
微笑みながら桜を見あげる彼の横顔はとても美しくて目が離せなくなってしまう。しばらく見つめていれば、彼は恥ずかしそうに笑った。
「奥さんを愛していたんですね」
そうだね、彼はそう答えてもう一度桜を見上げた。
君もよく見てみるといい、そう言って彼は立ち去った。彼の立っていた位置から見上げる桜はこれまでと比べ物にならないくらい綺麗だった。
ふと視線を下にすると木の根本が少し凹んでいた。気になって掘ってみたそこには……。
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